第三章  畏怖

 

 

「おい!どこ行くんだよ?」

 

そう尋ねたのは十一番隊第三席 斑目一角だった。恋次が話の途中で急にどこかへと歩き出したのだ。

 

呼びかけられた恋次のほうも特にどこか目的地があったわけではないので一角の声に足を止めた。しかし、なんと返せばいいのか言葉につまる。

 

「あれって朽木隊長だったよね。」

 

そういって一角の後ろから声をかけてきたのは十一番隊第五席 綾瀬川弓親だった。彼の目は先ほど白哉がいた方角をみていた。

 

「気付いてたんですか?」

 

恋次は少し困った顔をした。

 

「あたりまえだよ。相手は隊長だよ。どんなに霊圧を抑えてたってあの距離なら気付くよ。一角も気付いてたでしょ?」

 

「ああ…」

 

一角は恋次の表情をみて、一連の行動について納得した。そして、首の後ろ側をボリボリと掻きながら恋次に言う。

 

「お前まだルキアって娘のこと気にしてんのか?」

 

恋次に剣を教えたのは一角だ。一角は恋次が十一番隊に入ってからよく面倒を見てきた。あるとき恋次は゛朽木白哉より強くなりたい"っと言った。そのときに一角と弓親にルキアとのことも少なからず話していたのだ。

 

一角の問いに暫く黙っていた恋次だが。小さく「……いいえ」と言った。恋次もルキアは家族を得たのだとこの四十年の間に自分を納得させた。あの時の選択は間違ってはいなかったのだと……確かにルキアは朽木家の養子となりつらい寂しい思いをしたかもしれないが、それも十三番隊に配属されて今は明るく過ごしていると聞いた。そうあの時の選択は間違っていなかった。今はもうそのことを気にしてはいない。

 

…そう今もなお許せないのは余りにも未熟だった自分自身の弱さへの恥ずかしさと怒りだ。

 

恋次は己が分からなくなっていた。白哉の強さに憧れ同時に六番隊長として尊敬する部分もある。決して白哉を嫌っている訳ではないのだ。しかし、それでも白哉の目を見つめることが出来ない。まるで後ろめたいことでもあるかのように目を背けてしまうのだ。

 

(くそっ、なんなんだ?俺はあの人を恐れているのか……それとも……)

 

白哉と目を合わせると吸い込まれそうになる。あの黒く澄んだ瞳に捕らえられる度に四肢は震え、足は体重を支えられなくなる。まるで捕食者に捕らえられた獣のように……絶対的に逆らえない……襲い来る恐怖……

 

恋次の体は小刻みに震えていた。そして、その様子を見ていた2人は互いに顔を見合わせ深いため息をついたのだ。

 

 

 

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